石川直樹

いま生きているという冒険 (よりみちパン!セ)

いま生きているという冒険 (よりみちパン!セ)

(登山について)次に踏み出す足の置き方を間違えたら、危険にさらされてしまうような場所がいくつも出てきますが、ぼくはそういう所にいるときになぜか心の底から幸せを感じるのです。(中略)自分が“生きている”と感じるのです。p163

日本で生活をしていて、自分の「命」を意識することは滅多にない。この環境は、生きることの目的を見失いやすい環境であるような気がした。

歳をとりながら、さまざまなものとの出会いを繰り返すことによって、人は世界と親しくなっていきます。やがて、世界の声は消え、光の洪水は無色透明の空気みたいになって、何も感じなくなっていくのでしょう。それは決して苦しいことではありませんから、世界との出会いを求めることもなくなり、異質なものを避けて五感を閉じていくのかもしれません。p254

同じ事を小さい頃から考えていた。大人は、自分の常識を簡単に否定できない…。

いまぼくたちが生きている物質的な空間とは別な世界が確かにあって、そこは「ここ」や「あそこ」にあるのではなく、あらゆる場所に存在しています。その世界への通路は、いわゆる「聖地」と呼ばれる場所にひらかれていたり、あるいは想起する力によって自分自身の中に引っ張り込むことも可能になるでしょう。p278
旅をすることで世界を経験し、想像力の強度を高め、自分自身を未来へと常に投げ出しながら、ようやく近づいてきた新しい世界をぼくはなんとか受け入れていきたいと思っていました。そうすれば、さまざまな境界線をすり抜けて、世界のなかにいるたった一人の「ぼく」として生きていける気がするからです。p279