箱男

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

べつに目新しいものは、何もなかった。だが、風景の細部にまで、おだやかな、しかし浸透力の強い光がしみわたり、眼にうつるすべてがなめらかで、しなやかだ。通行人の表情からも、身のこなしからも、敵意を感じさせるものはきれいに拭い去られてしまっている。意地悪くあらさがしする眼など、もうどこにもない。p195